新卒採用で高く評価される志望動機の書き方と伝え方の教科書

「志望動機はラブレターのようなものなのに、本当に好きでもない会社に志望動機を伝えるのは難しくないですか?」

これは筆者が就活支援をしている頃に学生から質問を受けた内容です。この学生の気持ちはとてもよく分かります。好きでもない相手に「好きです」と伝えるのは何をどう考えても難しいことです。

ですが、志望動機はラブレターではありません。

志望動機とは、企業が新卒採用の選考で求職者を評価するために使う情報であり、どんな志望動機が評価に値するのかについてのロジック(論理)が存在します。

そして、この志望動機の評価ロジックを理解することで、本当に好きでもない会社(第二志望以下の企業群)に対しても志望動機を伝えられるようになります。

本稿では、企業が志望動機を聞きたがる理由=ロジックをお伝えしつつ、新卒採用で高く評価されるための志望動機の書き方・伝え方をご紹介します。

志望動機の必要性

そもそもの話として、企業が志望動機を聞きたがるのは何故なのでしょうか?

理由は2つあります。

  1. カルチャーフィットを評価するため
  2. 入社意欲の高さを見極めるため

それぞれ説明します。

1. カルチャーフィットを評価するための志望動機

新卒採用の評価はスキルフィット(能力の相性)とカルチャーフィット(企業文化との相性)の2系統に別れ、それぞれの系統の評価の組み合わせで総合的な評価が導かれます。

評価の組み合わせは4通り。評価の高い順番に並べると以下のようになります。

採用における人材評価の組み合わせ図
  • ①スキルフィット高評価 × カルチャーフィット高評価
  • ②スキルフィット低評価 × カルチャーフィット高評価
  • ③スキルフィット高評価 × カルチャーフィット低評価
  • ④スキルフィット低評価 × カルチャーフィット低評価

ここで注目すべきは②と③の順番(スキルフィットよりカルチャーフィットが重視される点)です。

企業は、多少の能力不足があったとしても自社の企業文化に馴染む人材は能力を開花させる(能力的に優れていても自社の企業文化に馴染まない人材は能力を発揮できない)と考えています。

新卒採用はポテンシャル採用だからこそ、今後の伸びしろを測定するモノサシとしてカルチャーフィット(企業文化との相性)を重視しているのです。

そして、カルチャーフィットで高く評価を受けるためには、志望動機の中で自身の気質や価値観が企業文化とマッチすることをアピールすることが有効です。

具体的には、志望動機に以下の要素を含めることを検討してみましょう。

  • 企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や経営理念への共感
  • 企業の歴史や目指す方向性への共感
  • 企業の社風と自身の気質との相性
  • 社員の仕事のスタンスや価値観への共感
  • 企業が求める人材像と自身との共通点

2. 入社意欲の高さを見極めるための志望動機

企業の採用枠には限りがあるので、企業は内定を出した人の入社確率を高めたい(内定辞退率を下げたい)と考え、 入社意欲の高さを見極めるために志望動機を聞いている側面があります。

入社意欲の高さは、志望動機の納得感本気度で評価されます。志望動機の説明を聞いてみて納得感があるかどうか。本気度が伝わってくるかどうかが問われます。

そして、納得感を伝える上では自己理解型の志望動機、本気度を伝える上では企業理解型の志望動機が有効です。

自己理解型の志望動機とは

自分の価値観がベースにある『あなただけ』の志望動機が、自己理解型の志望動機です。一般論や誰かの志望動機のコピーではないからこそ、納得感のある志望動機として相手に伝わります。

企業理解型の志望動機とは

企業理解がベースにある『その企業だけ』の志望動機が、企業理解型の志望動機です。企業研究を真剣にやっているという意味で、本気度のある志望動機として相手に伝わります。

2つの志望動機の関係性

自己理解型の志望動機と企業理解型の志望動機。この2種類の志望動機は優劣関係ではなく相互補完関係にあります。

自己理解型と企業理解型の掛け合わせることで、納得感と本気度のある志望動機、つまり、入社意欲の高さが伝わる志望動機を作ることができます。

自己理解型の志望動機の書き方・伝え方

自己理解型の志望動機は以下の基本構成を押さえれば簡単に書くことができます。

【1】企業情報
【2】企業選びの軸(就活の軸)
【3】自分の価値観

この【1】【2】【3】の順番で志望動機を伝えます。具体的な面接シーンを見ていきましょう。

<面接シーン>

面接官:志望動機をお聞かせください。

あなた:私が御社を志望する理由は大きく3点あります。御社が成長フェーズである点。仕事に創意工夫が求められる点。若手社員が活躍されている点です(【1】企業情報を説明)

面接官:その3点を理由とするのは、なぜでしょうか?

あなた:この3点に惹かれるのは、私が企業選びの軸として裁量の大きい仕事を重視しているからです(【2】企業選びの軸(就活の軸)を説明)

面接官:裁量の大きさを重視するのは、なぜでしょうか?

あなた:私は学生時代の居酒屋の接客のアルバイト経験を通じて、成長することで周囲に貢献できる範囲が広がることを実感しました。私は自己成長を通じて会社や社会に価値貢献していきたい。それが裁量の大きい仕事を重視する理由です(【3】自分の価値観を説明)

面接官:なるほどですね 。

このように、基本構成の順番(【1】企業情報→【2】企業選びの軸(就活の軸)→【3】自分の価値観 )で志望動機を伝えることで、面接官に納得感のある志望動機として伝わりやすくなります。

この自己理解型の志望動機の書き方は3ステップに分かれます。

  • Step1. 自分の価値観を抽出する
  • Step2. 企業選びの軸を考える
  • Step3. 企業情報を探す

Step1. 自分の価値観を抽出する

自己理解型の志望動機で最も重要な要素は自分の価値観です。自分の経験を振り返ることで自分の価値観を見つけます。

自分の価値観を見つけるには、自分の感情(怒り・喜び・悲しみ・嫌悪・驚き・恐れ)の変化に向きあうことが大切です。感情が沸き起こった出来事の周辺を掘っていくと、自分の価値観を見つけることができます。感情は自身の価値観に気づくための優秀なセンサーになるのです。

<例>

・自分の経験の振り返り
居酒屋の接客のアルバイト経験。初めの頃は何もできずに周囲に迷惑をかける状況だった。しかし、マニュアルを体得して、実務を通じてお客様に対する配慮も学び、気づいたら周囲に貢献できる範囲が広がっていて、お客様や同僚から褒められたり感謝されることが多くなった。自分が成長することで、こんなに良いことがあるなんて知らなかった。

・自分の価値観
自己成長(成長を通じて周囲に貢献していきたい)

Step2. 企業選びの軸(就活の軸)を考える

次に、自分の価値観にマッチする企業選びの軸(就活の軸)を考えます。

自分の価値観「○○○」が満たされる企業の条件=企業選びの軸(就活の軸)は、「●●●な組織」や「●●な仕事」であるという具合に考えましょう。

自分ひとりで考えることが難しい場合は、OB訪問の場で「自分の価値観だと、どんな企業選びの軸が考えられるか?」を社会人に聞いてみましょう。

例:「自己成長」の価値観にマッチする企業選びの軸

  • 裁量の大きな仕事
  • 高い成長目標を掲げる組織
  • 成果主義の組織

例:「人の役に立つこと」の価値観にマッチする企業選びの軸

  • 利他的な理念を掲げる組織
  • 社員同士が協力し合う組織
  • 価値貢献を実感できる仕事

例:「挑戦」の価値観にマッチする企業選びの軸

  • 高い成長目標を掲げる組織
  • 新規性の強い事業に挑戦している組織
  • 挑戦することを評価する組織

企業選びの軸の考え方の詳細については、以下の参考情報をご覧ください。

<参考情報>
【就活】企業選びの軸(就活の軸)を考える3つの視点と7つの質問

Step3. 企業情報を探す

最後に、企業選びの軸(就活の軸)にマッチする企業情報を探します。

自分ひとりで探すことが難しい場合は、OB訪問の際に「自分の企業選びの軸にマッチするのはどんな企業なのか」を社会人に聞いてみましょう。

例:「裁量の大きい仕事」という企業選びの軸にマッチする企業情報

(1)組織が成長フェーズである
組織が成長フェーズであるということは、事業拡大や昇進昇格のチャンスが多くあり、新しい仕事に挑戦する機会が多いことを意味する。つまり、仕事の裁量が大きいと言える。

(2)仕事に創意工夫が求められる
創意工夫が求められる仕事では、自分で考えて試行錯誤する必要があり、必然的に仕事の裁量が大きくなる。

(3)若手社員が活躍している
若手社員が活躍している背景には、若い人が登用される評価制度があり、かつ、若い人が挑戦できるだけの機会がある。仕事の裁量が大きいことが想定できる。

企業理解型の志望動機の書き方・伝え方

企業理解型の志望動機も以下の基本構成を押さえれば簡単に書くことができます。

【1】業界の志望理由
【2】企業の志望理由
【3】職種の志望理由

この基本構成の順番で志望動機を伝えます。面接シーンを見ていきましょう。

<面接シーン>

面接官:志望動機をお聞かせください

あなた:私はIT業界を志望しています。かつての『業務効率化のIT』からFintechやAgritechのように既存産業×ITで『ビジネスの付加価値を産むIT』へと業界の役割が進化している点、つまり、世の中をより良くする観点でITが様々な産業の中心的存在になっていると考えるからです(【1】業界の志望理由の説明)

あなた:その中で貴社を志望するのは、私の「教育」分野への関心と貴社のEdtech(教育×IT)関連の事業内容がマッチすると感じたからです(【2】企業の志望理由を説明)

あなた:私はベンチャー企業の長期インターンシップで培った新規開拓営業の経験を活かして、貴社の営業職として貢献できるものと考えています(【3】職種の志望理由を説明)

面接官:なるほどですね。

このように、基本構成の順番(【1】業界の志望理由→【2】企業の志望理由→【3】職種の志望理由)で説明をすることで、面接官に対して本気感のある志望動機を伝えることが容易になります。

企業理解型の志望動機を書くためには徹底した企業研究が必要です。企業研究のテクニックをご紹介するので参考にしてみてください。

企業研究のテクニック1. 業界研究本

業界の歴史と現状、将来の考察、業界内のプレイヤー企業情報、業界の職種や仕事内容等の情報が揃っています。いろんな業界のことを広く浅く学べる業界地図ではなくて、一つの業界を深く学べる業界研究本を活用しましょう。

<参考情報>
産業と会社研究シリーズ|産学社

企業研究のテクニック2. 社員の声

社員はネット上に出回っていない希少性の高い情報を持っています。OB訪問サービスを活用して情報収集に励みましょう。

<参考情報>
【おすすめ】OB訪問の就活サービス(人気企業内定者のOB訪問ノウハウ集付き)

<社員の声で分かること>

  • 会社の社風
  • 仕事の難しさ・やりがい
  • 業界内の勢力図・同業他社との違い

※OB訪問では、自己PRのフィードバックを求めるよりも、上記のことを知るためのコミュニケーションに時間を使うことを強く推奨します(そのOBだからこそ話せる情報を引き出すべき)。

企業研究のテクニック3. IR情報

上場企業の場合は企業サイトからIR情報を閲覧可能です。

できれば有価証券報告書を読むことをお勧めしますが、有価証券報告書の内容が分かりづらいと感じる方は決算説明会資料に目を通すことをお勧めします(プレゼン資料なので読みやすいです)。

<IR情報で分かること>

  • 会社の中核事業や注力事業
  • 伸びている事業・伸び悩んでいる事業
  • 会社の方針や戦略、ビジネスモデル

企業研究のテクニック4. 社員インタビュー記事

新卒採用サイトや就活サイトに掲載されている社員インタビュー記事の中に企業研究に役立つ情報を見つけることができます。中途採用サイトの社員インタビューもお勧めです。

<社員インタビュー記事で分かること>

  • 職種の具体的な仕事内容
  • 社員の(その会社への)志望動機
  • 社員の入社後のキャリアパス

企業研究のテクニック5. カルチャー情報

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や経営理念・行動指針などの企業のカルチャー情報は「企業の志望理由」としてそのまま活用できる可能性があります。

志望動機に関するよくある質問(FAQ)

志望動機で「○○をやりたい」と、特定の部署や職種の希望を伝えるのは問題ないでしょうか?

総合職採用の場合は特定の部署・職種の希望を伝えるのは止めた方が良いです。

なぜなら、採用する側からすると「希望部署への配属が叶わなかった場合は早期離職のリスクが高まる」と思わざるを得ないからです。まずは入社することを優先させたい場合は、志望動機で「○○をやりたい」と、特定の部署・職種を指定することは止めた方が賢明です。

ちなみに、「その特定の部署・職種で仕事をできないのであれば入社する気はない」という意思があれば、面接の志望動機でも堂々と宣言すべきだと思います。

自己理解型の志望動機と企業理解型の志望動機は両方必要なのか?

第一志望企業であれば両方用意すべきだと思いますが、そうでない場合は自己理解型の志望動機に絞る形が効率的です。理由は2点あります。

1点目は汎用性。

自己理解型の志望動機は、様々な企業の志望動機に使いまわすことができる汎用性の高さがありますが、企業理解型の志望動機は基本的に使いまわすことができません(企業毎に作りこむ必要があります)。私は、志望度が高まっていない企業について企業理解型の志望動機を作るのは時間が勿体ないと感じます。

2点目は志望動機の質問タイミング。

面接で志望動機を質問されるのは選考中盤フェーズ以降(二次面接以降)が多いので、選考序盤は自己理解型の志望動機のみで乗り切り、中盤以降に自身の志望度の高まり具合に応じて、企業理解型の志望動機を準備する形が効率的です。

「当社でやりたいことはありますか?」の質問にはどう答えるの?

やりたいことは、利己的なもの・自分都合なものとして相手に伝わりがちです。だからこそ、企業への貢献意識を伝えることが重要です。

たとえば…

Aさん:私は御社の法人営業に挑戦したいです。私は御社のブランドのファンでして、ぜひ、それを海外に広めることに貢献できるような仕事をしたいと思います。

Bさん:私は御社の法人営業に挑戦したいです。私は大学時代に料亭での接客アルバイトの経験を通して、お客様のニーズを汲み取り、先手先手のサービスをすることが得意でして、その強みは御社の問題解決型の営業という仕事においても活かすことができると考えています。

Aさんのやりたいことは憧れベースの利己的な内容ですが、Bさんのやりたいことからは自身の強みを元にした企業への貢献意識が十分に感じ取れます。

Bさんのような回答を意識しましょう。

志望動機を考えているのですが、どうしても「その会社でないといけない理由」を考えられません。その会社ならではのユニークな志望動機はどう考えれば良いですか?

企業理解型の志望動機であれば、業界・企業・職種の志望理由を伝えることになるので、必然的にユニークな志望動機になりやすいです。

ですので、企業理解型の志望動機を考えましょうというのが1つの答えになります。

自己理解型の志望動機の場合は「私は御社を志望する理由は大きく3点あります」という具合に複数の志望理由をかけ合わせることでユニークな志望動機として伝わりやすくなります。一つ一つの志望理由は平凡でも、それらをかけ合わせていくとユニークな志望理由になります。

例えば「地元に根差した企業」は全くユニークではありません。

それでは「地元に目指した企業」に「中小企業を支援する仕事」をかけ合わせるとどうでしょうか? この条件に該当するのは地銀や中小企業向けのコンサルティング会社などのB2Bの企業などに絞られるので、ある程度ユニークですね。

さらに「地元に目指した企業×中小企業を支援する仕事」に「実力主義の組織カルチャー」をかけ合わせると、B2Bの企業の中でもベンチャー気質のある会社に絞られるのでかなりユニークです。

ちなみに、ユニークな志望動機を考えるのは、第一志望の企業群のみで良いと筆者は考えます。

なぜなら、志望度が高い企業でないとユニークな志望動機にはならないからです。第四希望や第五希望の会社が何故その順位なのかと言えば、それは端的に自分の価値観や企業選びの軸とあまりマッチしていないから。ユニークな志望動機にならなくて当然なのです。そこをマッチさせるべくユニークな志望動機を考えるのは無理筋ではないでしょうか。

あとがき

志望動機とは、ラブレターのように告白をするためのものではありません。

志望動機とは「御社の●●な部分と自分の〇〇な価値観や企業選びの軸が合致しているので志望しました」という合理的な応募理由の説明をするためのものです。

その上で、志望動機を作ることは自分自身と向き合う良い機会になります。親や世間が勧める有名企業や人気企業に内定するために、自分の気持ちを無視した志望動機を作ることはお勧めできません。

  • 自分は何をやりたいのか?
  • 誰にどんな貢献をしたいのか?
  • どう生きたいのか? 

こういった問いを通じて、自分の本当の気持ちに向き合い、志望動機を作る過程で、真の志望企業と出会えるようになることを願います。

執筆者はこの人!

池田 信人

自動車メーカーの社内SE→人材紹介会社の法人営業→就活支援会社の事業企画・メディア運営→独立。ニャンキャリアを運営。Twitterはこちら

公開日 2019-07-21 最終更新日 2023-03-25