3匹の子ぶた起業家

むかしむかし、あるところに 、ワクワクどうぶつ王国という動物たちの国がありました。

その国では、従来の弱肉強食社会から資本主義社会への大転換が起こり、それ以来、肉食・草食や種の違いを問わずに、動物たちは皆ビジネスに励むようになりました。

これは、そんなワクワクどうぶつ王国を舞台にした、3匹の子ぶた起業家の物語です。

プロローグ

母ぶた:お前たち、ちょっといいかしら?今日は大事なお話があるの。

長男ぶた:なぁに、お母さん?

ぶた:実はね、隣町にオオカミが出たのよ!

次男ぶた:えっ

ぶた:オオカミは「あらゆる事業を倒産に追い込む、不況の風を吹く」と言われているわ。実際に、隣町の企業は軒並み赤字決算に陥っているのよ!

三男ぶた:どひゃー

ぶた:だから、お前たちはオオカミの到来に備えて起業しておくのよ。ここに300万円あるわ。この資金を元手にして、オオカミにも負けない立派な事業を育てることにコミットするのよ!

3匹の子ぶたたち:はーい。

こうして、3匹の子ぶたは独立のために親元を離れて、立派な起業家を目指すことになったのです。

長男ぶたの事業

長男ぶた:よし……できた! 僕のアフィリエイト事業は絶対倒産しないぞ! 

長男ぶたはアフィリエイト事業を始めました。

健康情報に特化したアフィリエイトサイトを作り、健康商品を紹介することで広告収入を得るビジネスモデルです。長男ぶたはクラウドソーシングを活用したキューレーション記事を大量生産することで事業を急拡大させることに成功しました。売上は右肩上がりで向かうところ敵なしです。

そんな絶好調な時にオオカミがやってきました……

オオカミ:おうおうおう、儲かってるな~

長男ぶた:オ、オオカミさん……何のようですか?

オオカミ:ちょっと、オタクはやり過ぎたみたいだね。狼国データバンクの調査を入れたところ、オタクのサイトで公開されている記事の9割が他サイトのパクリ記事やら嘘の情報を元に作られていることが分かりましてね。

長男ぶた:……

オオカミ:特に、オタクのサイトは健康情報を扱っているサイトだから、ごめんなさいで済まないんだよね。

長男ぶた:ぐっ、具体的に何がダメなんですか!

オオカミ:そうだね、例えば「猫の美容に効く!ドッグフード22選」の記事があるじゃん?

長男ぶた:はい 。

オオカミ:この記事の内容を真に受けて、実際にドッグフードを試した猫さんたちの食あたり被害が何匹も出ているからね。ドッグのフードをキャットがイートしちゃダメでしょ?

長男ぶた:うっ

オオカミ:他にも「八木教授のお墨付き!ゼロカロリーの紙を食べるだけの神ダイエット」という記事だけどさぁ、これ八木教授の許可もらってないでしょ? ヤギ界の重鎮を起用することで権威性を訴求したいのは分かるんだけど、勝手に載せるのはアカンよ~

長男ぶた:ブヒィ~(断末魔)

オオカミは一通りの話を済ませると、サッと帰っていきました。

長男ぶたは「な~んだ、オオカミさんってこんなものか。注意喚起を促すだけで大したことないな」と安堵しました。しかし、オオカミが訪れた翌日から長男ぶたの運営する健康情報に特化したアフィリエイトサイトには誰も訪れなくなりました。検索エンジンのアルゴリズムが変わったのです。つまり、コピペ記事やら嘘の情報を掲載するサイトが上位表示されないようになったのです。

集客手段を絶たれた長男ぶたは泣く泣く事業撤退をするしかありませんでした。

次男ぶたの事業

一方その頃…

次男ぶた:よし……できた! 僕の考えたキッチンカー事業は絶対倒産しないぞ!

次男ぶたはキッチンカー事業を始めました。

人通りの多い街中にキッチンカーで乗り付けて食べ物を提供する。立地が重要と言われる飲食ビジネスにおいて自由に場所を選べる点にキッチンカーの利点があります。この次男ぶたのキッチンカー事業の滑り出しは順調でした。次男ぶたが出店しているエリアには他に何台ものキッチンカーがいるにも関わらず、次男ぶたのキッチンカーに一番の行列ができていたのです。

そんなある日、オオカミがやってきました……

オオカミ:おうおうおう、儲かってまんがな~

次男ぶた:オオカミさん…長男ぶたは法律上グレーなところに突っ込んでいって倒産に追い込まれたようですが、私は漂白剤も驚きの真っ白な事業をやっているので、貴方の出る幕はありませんよ?

オオカミ:あっ、うん。そうだね。

次男ぶた:えっ

オオカミ:今日は、君にアドバイスをしに来たんだ。ほら、長男ぶたがあんなことになっちゃったからね。私は君には成功して欲しいんだよ。

次男ぶた:オオカミさん……

オオカミ:ちょっと一言だけいいかな?

次男ぶた:はい。

オオカミ:君のキッチンカーでは何を売っているのかな?

次男ぶた:見ての通り『白いたい焼き』ですけど?

オオカミ:それ、ブームが終焉しているやで。

次男ぶた:えっ、だって、この月刊起業家マガジンの「これからの絶対来る!ブーム特集」には白いたい焼きが熱い!って書いてあるじゃないですか?

オオカミ:それ、発売日が1年前のやつやん? 今のブームはタピオカミルクティーやでぇ~

次男ぶた:ブヒィ~(断末魔)

オオカミさん曰く、「今の売上が順調なのは絶滅したはずの白いたい焼きが『ワ、ワレ、生き残ってたんけ!?』と消費者から物珍しく思われていただけだから、すぐにまた飽きられて売上はすぐに落ちるだろう」とのこと。

確かに、次男ぶたが冷静に周囲の同業(キッチンカー)の取り扱い商品を観察してみると、皆が皆、タピオカミルクティーを販売しているではありませんか。次男ぶたも急いでタピオカミルクティーを取り扱いましたが時すでに遅し。

レッドオーシャンなタピオカマーケッツは、資本力に乏しい次男ぶたが戦えるフィールドではなく、泣く泣く事業撤退をするしかありませんでした。

三男ぶたの事業

一方その頃…

三男ぶた:いや~、オオカミさんの経営コンサルティングをお願いして良かったですよ~。

オオカミ:せやろ、せやろ~

三男ぶた:やっぱりビジネスは独りよがりで考えるのは良くないですね。2匹の兄と同じ末路は辿りたくありませんから。それで具体的にはどんな事業をやるべきですかね?

オオカミ:そうやな、これから伸びていく成長市場を選ぶこと。これが新規事業の鉄則やな。

三男ぶた:なるほど~

オオカミ:今だと、頭数が増加傾向にあるオオカミ向けのビジネスをするのが一番や。

三男ぶた:確かに最近はオオカミ増えていますね。具体的にオオカミ向けに何をすれば?

オオカミ:ほら?オオカミは飢えているやん?

三男ぶた:はい。

オオカミ:オオカミは豚が好きやねん。

三男ぶた:ハハッ、照れますね。

オオカミ:だから、とんかつ屋をやるんや!

三男ぶた:ブヒィ~(断末魔)

おしまい。

エピローグ

長男ぶたは法律的にグレーな領域に突っ込んでいった結果、見事に市場から締め出されました。次男ぶたはリサーチ不足が災いして過ぎ去ったブームに乗っかった結果、撃沈しました。三男ぶたは詐欺師(オオカミ)に相談した結果、文字通り、食い物にされてしまいました。

ビジネスはそんなに甘くないし、他人の儲け話には裏がある。

最近、甘言を弄する輩や詐欺的な輩が何だか増えているなぁと感じるので、皆さんも気を付けてくださいね。

執筆者はこの人!

池田 信人

自動車メーカーの社内SE→人材紹介会社の法人営業→就活支援会社の事業企画・メディア運営→独立。ニャンキャリアを運営。Twitterはこちら

公開日 2022-06-24 最終更新日 2022-06-25