俺様の斬新なアイデアが腐ってやがる。決裁者が多すぎたんだ!

これは、とある食品メーカーの新商品企画の物語。

新卒で配属された営業部においてエース級の働きが評価され、商品企画部に異動することになった土田(主人公)。会社の中枢、かつ、エリート社員が集うことで知られる商品企画部において、土田は結果を出せるのだろうか?

その試金石となる「今夏の新商品企画」に関わる機会が巡ってきたところから、土田の物語が始まるッ!!

企画会議。

木田係長:本日のアジェンダは今夏のヒット商品となるべく投入する新商品のアイデア出しだ。土田、お前なら腹案を持っているに違いないと思うがどうだ?

土田:
はい、とっておきのアイデアがあります。

木田係長:ほう、それは何だ?

土田:見た目はタピオカミルクティー、中身はナタデココ、その名は「タピオカデココミルクティー」ドンッ!

会議参加者一同:ざわ…ざわ… ざわ…ざわ…

土田:…コホン、タピオカデココミルクティーは見た目はタピオカミルクティーそのものですが、そのタピオカの半分は、実はナタデココを加工したものです。ナタデココの見た目を完全にタピオカにします。

水田:おい、土田ッ、ナタデココとタピオカは言うなれば光と闇。両者は決して相容れぬライバル的な存在なんだぞ? お前は正気なのか?

土田:矛盾を超越してこそビジネス、だろ? 

水田:それはそうだが…

木田係長:土田、お前のアイデアは相変わらずクレイジーでどうかしてるぜ。だが、それがいい。タピオカ派に加えてナタデココ派の支持も得られれば大ヒットは確実だな。このアイデアの商品化に予算はどれぐらい必要か分かるか?

土田:1億円程度かかるかと。

木田係長:1億円…となると予算規模的には役員決済案件だから必要なハンコは3つか。まずは林田課長に承認をもらいに行くゾッ!

土田:スタンプラリー、やっほーい!!

課長との会議。

木田係長:本日は今夏のヒット商品となるべく投入する新商品「タピオカデココミルクティー」の開発について予算の承認をいただきたく。

林田課長:うむ。

土田:私から説明をさせていただきます。

林田課長:うむうむ。

土田:見た目はタピオカミルクティー、中身はナタデココ、その名は「タピオカデココミルクティー」ドンッ!

林田課長:おい。

土田:こっ、この新商品はナタデココの見た目をタピオカそのものに加工することが最大の特徴でして、これによりタピオカ派(二アリーイコール、アンチナタデココ派)の購入ハードルを下げる狙いがあります。彼らはキューブ型の形状に対して嫌悪感を持っているので、見た目をタピオカそのものにすることでヘイトを和らげるのです。そして、実際にタピオカデココミルクティーを飲んで見るとアラ不思議。「あれ、ナタデココもいいじゃん!」となるわけです。これによりナタデココ派とタピオカ派の和解を実現することを狙います。つまり、今のこの第3次タピオカブームの流れにナタデココブームを仕掛けることでタピオカ派とナタデココ派の両者のシェア獲得を狙う戦略商品が「タピオカデココミルクティー」なのです。

林田課長:いいんじゃない? 予算はいくら?

土田:1億円です。四角いキューブ型のナタデココを、滑らかで丸っこいタピオカの形状に加工するための「金型」の製作コストです。

林田課長:ナタデココはキューブ型のままでいいね。無加工なら予算を大幅に抑えられるからさ。

土田:えっ、最大の特徴が台無しに…

木田係長:流石は課長! それは名案ですな。それで行きましょう。土田、企画案を修正した上で、明日は森田部長との会議に臨むぞ。

土田:・・・はい。

部長との会議。

木田係長:本日は今夏のヒット商品となるべく投入する新商品「タピオカデココミルクティー」の開発について予算の承認をいただきたく。

森田部長:おう。

土田:私から説明をさせていただきます。

森田部長:おう。

土田:見た目はタピオカミルクティー、中身はナタデココ、その名は「タピオカデココミルクティー」ドンッ!

森田部長:フフッ。

土田:この新商品は、既存のヒット商品であるタピオカミルクティーの中にナタデココをミックスしたものです。今のこの第3次タピオカブームの流れにナタデココブームを重ねるように仕掛けることで、通常のブームを超える超ブームを狙う戦略商品。それが「タピオカデココミルクティー」です。

森田部長:なるほど。タピオカとナタデココの比率はどれぐらい?

土田:ちょうど半分半分です。

森田部長:ベースがタピオカミルクティーなんだから、タピオカ9割・ナタデココ1割の比率にしなさい。

土田:えっ、それだとナタデココの触感が伝わりづらくなって…

木田係長:流石は部長! ご慧眼に感服いたしました。それで行きましょう。土田、企画案を修正した上で、明日は山田執行役員との会議に臨むぞ。

土田:・・・はい。

役員との会議。

木田係長:本日は、今夏のヒット商品となるべく投入する新商品「タピオカデココミルクティー」の開発について、予算の承認をいただきたく。

山田執行役員:俺は忙しいんだ、手短に頼むよ。

土田:私から説明をさせていただきます。

山田執行役員:おう。

土田:見た目はタピオカミルクティー、中身はナタデココ、その名は「タピオカデココミルクティー」ドンッ!

山田執行役員:(#^ω^)俺は忙しいんだ、よ?

土田:す、、すみません。この新商品は、既存のヒット商品であるタピオカミルクティーの中にナタデココをミックスしたものです。タピオカとナタデココの比率を9対1とすることでタピオカミルクティー支持層にも受け入れやすく、かつ、ナタデココ支持層にもリーチすることを狙います。

山田執行役員:タピオカ派(アンチナタデココ派)の俺の心が「ときめかない」からこのままでは売れないだろうな。

土田:・・・(こんまりメソッドw)

山田執行役員:目障りなナタデココをとっぱらえ。タピオカ10割だ。

土田:えっ、それってタピオカミルクティーそのものじゃ…

木田係長:流石は執行役員! まさにおっしゃる通りです。なんで今まで気づかなかったのカナー? それで行きましょう。土田、山田執行役員のご意見を全面的に反映するんだ!

土田:クッ……俺様の斬新なアイデアが腐ってやがる。決裁者が多すぎたんだ!

おしまい。

執筆者はこの人!

池田 信人

自動車メーカーの社内SE→人材紹介会社の法人営業→就活支援会社の事業企画・メディア運営→独立。ニャンキャリアを運営。Twitterはこちら

公開日 2022-07-22 最終更新日 2023-03-19