
就活や転職活動の際に好き好んで「ブラック企業」に入社する人はほとんどいません。
しかし、ブラック企業が社会問題として認知されている今の状況を踏まえると、こう考えるべきなのかもしれません。
「自分としては良い企業を選んだと思っていても、実はブラック企業を選んでしまっていたなんてことは誰にでも起こり得ることなのだろうな…」と。
誰がどう見ても真っ黒なブラック企業を見分けることは簡単ですが、ブラックにも濃淡があります。そして正直な話、ブラック企業かどうかを見分けることが難しいケースがたくさんあります。
そこで本稿では「先人の知恵」をお借りして、自力ではなく他力でブラック企業を見分ける方法をご紹介します。
<目次>
- ブラック企業の定義
- ブラック企業の7つの特徴
- 先人の知恵を借りたブラック企業の見分け方
- ブラック企業のFAQ(よくある質問)
ブラック企業の定義
ブラック企業とはどんな企業なのか?
厚生労働省の運営する「労働条件に関する総合情報サイト」によるとブラック企業について下記のように言及されています。
“厚生労働省においては、「ブラック企業」について定義していませんが、一般的な特徴として、①労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、②賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、③このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、などと言われています”
端的に言ってしまえば、ブラック企業とは、社員に過労死ラインを超える時間外労働が必要なノルマを課しながら残業代を支払わらずにハラスメントで精神的に追いつめて使い捨てにする企業であると定義できます。
ブラック企業の7つの特徴
ブラック企業の特徴を示す7つの項目に、あなたの志望企業や気になる企業がどの程度当てはまるのかをチェックしながらご覧ください。
7つの項目全てに当てはまる場合は真っ黒な黒。誰がどう見てもブラック企業。1つの項目のみに当てはまる場合は薄っすらとした黒。ブラック企業かどうかは個人の解釈で変わります。つまり、当てはまる項目数が多いほどに企業のブラック色が濃くなると捉えていただければと思います。
それではどうぞ!
1. 労働集約型ビジネス
広告、コンサル、SIer、運送、アパレル、飲食、宿泊、旅行、ブライダル、介護、人材、学習塾などの幅広い業種に見られる労働集約型ビジネス(労働力への依存度が高いビジネス)では一人ひとりの社員の長時間労働が常態化しやすい傾向にあると言われています。
もちろん、良識のある企業では、社員の長時間労働を極力避けるために社員を育成することで労働力を高めるアプローチをとります(労働力=能力×労働時間の式において能力を変数にする考え方です)。
一方で、良識に欠けるブラック企業では、社員が長時間働くように仕向けることで労働力を高めるアプローチをとります(労働力=能力×労働時間の式において労働時間を変数にする考え方です)。
2. 成果至上主義
社員が長時間働くように仕向けるために、ブラック企業では成果至上主義を掲げて「どれだけ仕事で成果を出したのか」で社員を評価します。
一般的な企業が仕事の成果とプロセスのバランスで社員を評価するのに対して、ブラック企業は仕事の成果の評価に比重を置きます。その結果、とにかく成果を出した人が評価され昇進昇格していきます。
とにかく成果を出せば評価されるとなると、社員の中から成果を出すためには手段を選ばない人物が生まれ、顧客を騙すようなブラックなやり方で成果を出して出世を果たし、ブラック上司に成り、パワハラやモラハラなどのハラスメント行為を組織に蔓延させていきます。
3. 過酷なノルマと詰めの文化
ブラック企業では社員に対して過酷なノルマ(目標)を設定します。ちょっと手を伸ばせば届くストレッチ目標ではありません。長時間労働ありきの目標です。
そして、このノルマを達成に向けて、ブラック上司が「なぜできないの?」「このままだとウチの会社では通用しないけど大丈夫?」などと “詰める” ことで社員を精神的に追い込んでいきます。
目標達成に向けて部下を指導することは多くの組織で行われていることですが、ブラック企業の場合は、その程度が行き過ぎている点が問題です。
(ちなみに、金融や不動産などの業種、営業部が会社を引っ張っている “営業会社” ではノルマや詰めがかなりきつい傾向にあります。)
4. 高い離職率
長時間労働を宿命づけられたブラック企業や人を消耗品のように扱う黒の組織を辞めたいと思うのは当然のことであり、ブラック企業の離職率は必然的に高くなります。
事実、厚生労働省の雇用動向調査結果にも書かれているようにブラック企業で問題視されることの多い「労働時間」を離職理由に挙げる人の割合は多い状況です。
“平成29年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由をみると、男性は「その他の理由(出向等を含む)」23.4%を除くと「定年・契約期間の満了」17.8%が最も高く、次いで「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.4%となっている。女性は「その他の理由(出向等を含む)」22.9%を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」14.7%が最も高く、次いで 「職場の人間関係が好ましくなかった」13.0%となっている”
ちなみに、厚生労働省が発表している新規大卒就職者の3年以内離職率から産業(業界業種)毎の離職率を確認することができます。
平成26年3月卒 | 平成27年3月卒 | 平成28年3月卒 | |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 9.7% | 10.8% | 9.2% |
製造業 | 20% | 19.5% | 19.6% |
金融・保険業 | 21.8% | 21.7% | 23.0% |
情報通信業 | 26.6% | 28.0% | 28.8% |
小売業 | 38.6% | 37.7% | 37.4% |
医療、福祉 | 37.6% | 37.8% | 39.0% |
教育、学習支援業 | 45.4% | 46.2% | 45.9% |
宿泊業、飲食サービス業 | 50.2% | 49.7% | 50.4% |
参考:新規大卒就職者の産業分類別 就職後3年以内の離職率の推移
労働集約型ビジネスに該当する業種の離職率が高く、インフラ(電気・ガス・熱供給・水道業)や製造業のような資本集約型(資本設備への依存度が高い)ビジネスは離職率が低い傾向にあります。
5. ふわっとした求人情報、低い採用ハードル
高い離職率の影響で慢性的な人手不足の状態にあるブラック企業では労働力を確保することを優先させるために、応募をたくさん集めるべく、求人情報を “ふわっ” と抽象化させることで少しでも魅力的に見せようとします。
<抽象化の例>
- 職種名をカタカナでかっこいい感じの造語にする
- 仕事内容をかなりぼかして表現する
- 給与をかなり広範囲のレンジで見せる
- 想定年収や年収例を理論上の最大値に近い数値で見せる
- 給与をざっくり見せる(基本給が低い事実を隠す)
そして、ブラック企業では応募のあった候補者を可能な限り採用するために、採用ハードルを低く設定する傾向があります。ゆえに、他社の選考と比べて選考回数が少ない場合や面接の内容が簡単過ぎる場合は要注意です。
6. 低い給与と積みあがらない専門性・スキル
ブラック企業の給与は求人情報上は高く見えるかもしれませんが、それは目標を超ハイ達成した場合の超絶レアケースな給与額。現実的な目標達成率で計算すると低い給与額(低い基本給+雀の涙の歩合給)になりがちです。
給与が低くても長時間労働であっても、職人の世界の徒弟制度のように、頑張り続けた先に専門性やスキルを積み上げられる希望さえあれば良いかもしれません。しかし、その希望が用意されていないのがブラック企業がブラックたるゆえんでもあります。
比較的短期間で習熟できてしまうレベルの仕事、ベテランと若手で仕事のクオリティに差があまり出ない仕事をずっと続けることになり、転職市場で評価される専門性やスキルを積み上げることができません。
もちろん、圧倒的な成果を出せば大きな昇給が見込める可能性はありますが、そのためには自身がブラック化する覚悟が求められることもあるので到底お勧めできません。
<余談>
年功序列の組織では専門性やスキルの向上がなくとも、勤続年数で給与が上がっていく夢のような仕組み(年齢給)があります。しかし、能力が向上せずに給料だけ高くなった先には転職市場で全く通用しない人材に仕上がってしまう辛い現実が待ち受けていることを考えると、これはこれでブラックなのかもしれません。
7. 顧客に誠実に向き合っていない
ブラック企業をブラックたらしめる最大の要因は経営者です。経営者の私利私欲の強さが企業をブラックに染め上げます。
そんなブラック経営者の作り上げたブラック企業では自社(というか究極的には自分自身)の利益を最優先に事業活動をするので強引な営業や納品の手抜きは日常茶飯事。社員を使い捨てながら焼き畑型のビジネスを続け、目先の売上と引き換えに顧客や取引先からの信頼を失っていきます。
良識ある人にとって、お客様を騙したり取引先に損をさせることで自社だけが得をする “Win-Lose” な仕事を続けることは危険です。精神が激しく消耗して仕事に向かう活力が奪われてしまいます。
先人の知恵を借りたブラック企業の見分け方
ブラック企業が採用ページや求人サイト、求人票に掲載する情報には嘘や誇張が混ざっていることは多くあります。それに、知られては不味い「不都合な真実」は当然ながら掲載されることはありません。
この圧倒的に不利な状況でブラック企業を見分けるには第三者が発信する情報が頼りです。就活や転職活動でブラック企業を選ばずに済むように、ぜひ、第三者の力(先人の知恵)を借りてみることをお勧めします。
先人の知恵を借りたブラック企業の見分け方をお勧め順にご紹介します。
1. 口コミサービスを利用する
その企業に現在在籍している方、または、過去に在籍して方だからこそ知っている組織体制や企業文化、働きがいや成長、入社理由と入社後ギャップなどの貴重な情報を閲覧することができます。
<おすすめの口コミサービス>
- Openwork
- 転職会議
- 就活会議
- My News Japan
参考:【おすすめ】就活や転職に使える口コミサービス|ニャンキャリア
ちなみに、口コミサービスはネガティブな情報が集まりやすい構造になっています。信憑性が薄い情報も交じっている可能性がありますが、残業時間・部署名・仕事内容・給料などの客観的な事実情報が書かれている口コミは情報の信頼性が高いと判断いただいて大丈夫です。
2. 社会人に相談する
口コミサービスを利用しても、自分の調べたい企業がブラック企業かどうかの見分けがつかない場合は、直接社会人に相談することをお勧めします。
ただ、口コミサービスのように “その企業” で現在働いている人・過去に働いていた人を見つけることは簡単ではありません。“その企業が属する業界” にまで対象を広げて探してみると良いです。業界内であれば「あそこはブラックですよね」という評判は自然と流通しているケースが多いものです。
社会人に相談する場合、就活をしている方であればOB訪問の就活サービスがお勧めです。
<おすすめのOB訪問の就活サービス>
- Matcher
- ビズリーチ・キャンパス
- HELLO, VISITS
参考:【おすすめ】OB訪問の就活サービス(人気企業内定者のOB訪問ノウハウ集付き)|ニャンキャリア
転職活動をしている方には求人紹介なしのキャリア相談サービスがお勧めです。有料のサービスが多いのですが、有料相談だからこそ良質の情報を得ることができる側面があります。
<おすすめのOB訪問の就活サービス>
- そうだんドットミー
- キャレア
- kiitok(キイトク)
- 我究館
- キャリアカウンセリング協会
参考:【おすすめ】求人紹介なしのキャリア相談サービス|ニャンキャリア
3. ググる(Google検索をする)
Google検索はインターネット全体に対してリサーチをできる点が魅力です。検索は検索キーワードを考えるセンスが求められるので苦手意識があるかもしれませんが、基本的には「企業名 ネガティブワード」の組合せでググれば大丈夫です。
<検索キーワードの組合せ例>
- 「企業名 ブラック」
- 「企業名 違法」
- 「企業名 悪評」
- 「企業名 残業」
- 「企業名 問題」
ちなみに、昨今はTwitter検索も流行っていますがGoogle検索ではTwitterの投稿内容を検索することはできません。そこで、Twitterの投稿内容の検索ができる「Yahoo!リアルタイム検索」で同様のキーワード検索をしてみることをお勧めします。
4. QAサービスを利用する
質問を投稿すると親切な第3者が回答をしてくれるQAサービスを利用して「この会社はブラック企業でしょうか?」と質問をするのも有効です。
ただし、匿名性の強いサービスが多いので回答内容の質にばらつきがある(当たりはずれが多い)点には注意が必要です。
<QAサービスの例>
- Yahoo!知恵袋
- OKWAVE(オウケイウェイヴ)
- 発言小町
- みんなの法律相談|弁護士ドットコム
※QAサービスを利用するマナーとして、過去に類似の質問がなかったかを調べてから質問を投稿するようにしましょう。
ブラック企業のFAQ(よくある質問)
1. ブラック企業は中小企業に多い?
【質問】
ブラック企業は中小企業に多いという噂は本当でしょうか?
【回答】
日本の企業の99.7%は中小企業なので「数」で見ると中小企業のブラック企業の数が多くなるのは当然かなと思います。
また、離職率は企業規模との相関が見受けられます。離職率の高さでブラック企業判定するとした場合に「率」で見ると中小企業のブラック企業の割合が多いです。
ただ、ブラック企業として表彰されるような企業群に大企業も普通にランクインしている現実を踏まえると、ブラック企業かどうかは企業規模の大小で雑に判定されるべきものではなく、個別具体的に見分けるものなのだと思います。
2. ブラック企業の目利きを人材紹介会社にお願いするのは有り?
【質問】
ブラック企業の目利きを人材紹介会社(就職エージェント/転職エージェント)にお願いするのは有りでしょうか?
【回答】
①人材紹介会社にはブラック企業の求人が含まれるケースがあります。②ブラック企業は採用ハードルが低い傾向があります。③人材紹介会社は求人企業に入社が決まった際にフィーが発生する成果報酬型のビジネスモデルです。④人材紹介会社のキャリアドバイザーは常に数字目標のプレッシャーにさらされています。
この①②③④を考慮すると、ブラック企業を目利きを人材紹介会社に相談することはお勧めできません。逆に、ブラック企業に押し込まれるリスクがあります。ただし、例外としてキャリアアドバイザーが信頼に足る人物であれば相談しても良いと思います。
この記事を書いた人
池田 信人(いけだ のぶひと)
コンテンツプランナー・編集者。人材紹介会社の法人営業、就活支援会社の事業企画・メディア運営を経験後、2019年8月に独立。自由な就活・転職をおすすめするメディア「ニャンキャリア」を運営。